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青森地方裁判所 平成元年(ワ)127号 判決

主文

一、被告(反訴原告)小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録一・二記載の土地・建物について、青森地方法務局平成元年三月二三日受付第六五三四号所有権移転登記を共有者を被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子とし、その持分の割合を各一〇〇〇分の一六四とする所有権一部移転登記に更正登記手続をせよ。

二、被告(反訴原告)小川春子は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録一・二記載の土地・建物について、青森地方法務局平成元年四月三日受付第七六六五号持分移転登記を所有者被告(反訴原告)小川春子の持分六分の三をその持分一〇〇〇分の四九二とする持分移転登記に更正登記手続をせよ。

三、被告大川忠男は、原告(反訴被告)に対し、一・二項の更正登記手続をすることを承諾せよ。

四、被告(反訴原告)小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録三記載の土地について、青森地方法務局平成元年三月二七日受付第六七九四号持分移転登記を共有者を被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子とし、その持分の割合を各一〇〇〇分の八八とする持分一部移転登記に更正登記手続をせよ。

五、原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

六、被告(反訴原告)小川春子の反訴請求を棄却する。

七、訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを五分し、その三を被告(反訴原告)小川春子の、その一をその余の被告らの、その一を原告(反訴被告)の各負担とする。

事実及び理由

第一、請求

(本訴)

一、被告(反訴原告)小川春子(以下「被告小川春子」という。)、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、原告(反訴被告)(以下「原告」という。)に対し、別紙物件目録一・二記載の土地・建物について、青森地方法務局平成元年三月二三日受付第六五三四号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告小川春子は、原告に対し、別紙物件目録一・二記載の土地・建物について、青森地方法務局平成元年四月三日受付第七六六五号持分移転登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告大川忠男は、原告に対し、一・二項の抹消登記手続をすることを承諾せよ。

四、被告小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、原告に対し、別紙物件目録三記載の土地について、青森地方法務局平成元年三月二七日受付第六七九四号持分移転登記の抹消登記手続をせよ。

五、被告小川春子は、原告に対し、別紙物件目録三記載の土地について、青森地方法務局平成元年四月三日受付第七六六四号持分移転登記の抹消登記手続をせよ。

(反訴)

原告は、被告小川春子に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二、事案の概要

本訴は、原告が、亡小川了からその遺産に属する土地・建物について公正証書遺言により包括遺贈を受けたとして、所有権に基づき、相続登記を経由した被告ら(被告大川を除く。)に対し所有権移転登記等の抹消登記手続を、抵当権設定登記を経由した被告大川に対し右抹消登記手続の承諾を求めたものであり、反訴は、被告小川春子が、夫亡小川了と別居中、同人と同棲し肉体関係を持つに至った原告に対し、不法行為に基づき、慰謝料を請求したものである。

一、被告小川春子と亡小川了は、夫婦であり、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、被告小川春子と小川了との間の子である。

被告小川春子と小川了は、昭和四九年頃から夫婦の円満を欠くようになり、小川了は、昭和五〇年七月、家を出て被告小川春子と別居し、青森市内のアパートに単身居住していた。

二、原告は、昭和五二年一一月、夫大崎孝を病気で亡くしたところ、昭和五三年三月末頃、亡夫孝の職場(青森市役所)の同僚であった小川了と同棲し、青森市内の借家で孝との間の娘二人と共に四人で暮らすようになった。

三、小川了は、昭和五七年七月、別紙物件目録一・二記載の土地・建物(以下「大野片岡の土地・建物」という。)を購入し、原告と共に移り住んだ。

四、小川了は、昭和六三年三月、病気で青森市民病院に入院したが、同月二二日同病院において、原告に小川了の所有する遺産全部を包括して遺贈(以下「本件包括遺贈」という。)する旨の公正証書遺言(以下「本件公正証書遺言」という。)をした。

五、小川了は、平成元年三月一四日、死亡した。

六、被告小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、平成元年三月二三日、小川了の遺産である大野片岡の土地・建物について相続登記(青森地方法務局平成元年三月二三日受付第六五三四号所有権移転登記)をし、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、平成元年四月三日、同日遺産分割を原因として三名の共有持分全部(六分の三)を被告小川春子に移転し、その旨の登記(同法務局平成元年四月三日受付第七六六五号持分移転登記)を了した。

被告小川春子は、同日、大野片岡の土地・建物について、債務者を被告小川春子、抵当権者を被告大川忠男とし、昭和六三年四月一〇日金銭消費貸借平成元年四月三日設定を原因とする債権額一二〇〇万円の抵当権設定登記(同法務局平成元年四月三日受付第七六六六号)をした。

また、被告小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、平成元年三月二七日、小川了の遺産である別紙物件目録三記載の土地(以下「合浦七番二六の土地」という。)の持分二分の一について相続登記(同法務局平成元年三月二七日受付第六七九四号持分移転登記)をし、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、平成元年四月三日、同日遺産分割を原因として三名の共有持分全部(一二分の三)を被告小川春子に移転し、その旨の登記(同法務局平成元年四月三日受付第七六六四号持分移転登記)を了した。

七、被告小川春子、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子は、原告に対し、平成元年六月一九日到達の書面をもって遺留分減殺の意思表示をした。

(争いのない事実〔一部〕、甲一ないし四、六の一、一一、一四、乙七の一・二、原告、被告小川春子)

第三、本件の争点

(本訴)

一、本件公正証書遺言に方式違背の無効事由があるか。

二、本件包括遺贈は、妾に対して全遺産を遺贈するものとして、公序良俗に反し無効であるか否か。

三、本件包括遺贈は、被告ら(被告大川を除く。)の遺留分を侵害するものか否か。

(反訴)

一、原告が、小川了と同棲し肉体関係を持つに至ったことは、被告小川春子の妻としての地位を違法に侵害した不法行為であるか否か。

(二 被告小川春子の原告に対する不法行為に基づく慰謝料請求権につき、昭和五六年一二月末または昭和六二年四月末の経過によって消滅時効が完成したか否か。)

第四、争点に対する判断

(本訴について)

一、本件公正証書遺言に方式違背の無効事由があるか。

小川了が本件公正証書遺言をした際の状況についてみると、証拠(甲一四、乙三五〔一部〕、三八、証人戸田次郎〔一部〕、同時田弘、原告)によれば、青森地方法務局所属公証人佐々木一雄は、昭和六三年三月二二日、小川了の嘱託により、同人が入院していた青森市民病院六階西病棟(編集注・略)に臨み、証人戸田次郎、同時田弘の立会いのもとに、遺言者小川了が受遺者原告に小川了の所有する遺産全部を包括して遺贈する旨の口述を公正証書用紙に筆記し、これを遺言者小川了及び右証人二名に読み聞かせたところ、小川了及び右証人二名はいずれも筆記の正確なことを承認したうえ、各自が右書面に署名押印したので、同公証人は、この遺言公正証書は民法九六九条一号ないし四号の方式に従って作成した旨を付記して、これに署名押印したことが認められる。

右認定の事実によれば、小川了の本件公正証書遺言は、同人の所有する遺産全部を受遺者原告に包括遺贈するという極めて簡単なものであって、その手続は民法九六九条の定める方式を履践したものであり、これに方式違背の無効事由は認められないから、本件公正証書遺言は有効なものと認められる。

二、本件包括遺贈は、妾に対して全遺産を遺贈するものとして、公序良俗に反し無効であるか否か。

小川了が本件包括遺贈をした経過をみると、証拠(甲五・六の各一・二、一二、原告、被告小川春子)によれば、同人と被告小川春子は、昭和五〇年七月に別居して以来、その交流は希薄となり夫婦としての実体を喪失し、婚姻関係は事実上破綻状態にあったこと、原告は、昭和五三年三月末頃から、小川了と同棲して内縁関係に入り、小川了が本件公正証書遺言をした昭和六三年三月の時点では両名の事実上の夫婦としての共同生活(内縁関係)は一〇年間継続していたこと、したがって、原告と小川了の関係は夫婦共同生活の実体を伴わないいわゆる妾関係とは区別されること、小川了は、原告の将来の生活の場所を保全するため、主として、原告と同棲後購入し共同生活を営んできた大野片岡の土地・建物を原告に与える趣旨で本件包括遺贈をしたこと、原告は、小川了が大野片岡の土地・建物を購入した際、手付金等の支払に充てるため国民金融公庫から恩給(遺族年金)を担保に入れて金一六〇万円を借り入れたこと、被告小川春子は小川了から相当な生前贈与を受け、その余の被告ら(被告大川を除く。)は成人し独立していることから、本件公正証書遺言の内容は相続人である右被告らの生活の基盤を脅かすものではないことが認められる。

右認定の事実によれば、本件包括遺贈が小川了の全遺産を原告に遺贈するものであるとしても、遺留分権利者において遺留分減殺請求をするのはともかく、本件包括遺贈自体を公序良俗に反して無効であるということはできない。

三、本件包括遺贈は、被告ら(被告大川を除く。)の遺留分を侵害するものか否か。

1. 被告ら(被告大川を除く。)の遺留分

被告ら(被告大川を除く。)は、被相続人亡小川了の配偶者と子であるから、その遺留分は、被告小川春子が四分の一、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子が各一二分の一である。

2. 小川了の遺産と相続開始時の価額

(1) 大野片岡の土地・建物

土地 金一四三五万円

建物 金一八二万円

(万未満の端数を切り捨てる。以下同じ。)

遺産の評価にあたっては、当事者から鑑定の申出がなかったので、鑑定の方法によらず、土地の価格については、一般にその取引価格は路線価の約二倍とされているから、路線価の二倍として計算し、建物の価格については、固定資産評価額(再建築費から損耗及び需給事情による減額補正をした価格)をその時価として計算する。

土地の単価が金四万一〇〇〇円(甲一七、一八)、地積が一七五平方メートル(甲一)であるから、路線価は金七一七万五〇〇〇円、時価は金一四三五万円となる。

建物(甲二)の固定資産評価額は、金一八二万〇二七三円(甲九)であるから、金一八二万円を時価とする。

(2) 合浦七番二六の土地の持分 二分の一 金四〇万円

土地の単価が金四万四〇〇〇円(甲一五、一六の一・二)、地積が一七五・〇九平方メートル(甲六の一)であるので、路線価は金七七〇万三九六〇円、時価は金一五四〇万七九二〇円となるが、持分二分の一であるから、その時価は金七七〇万三九六〇円となる。同地上には被告小川一郎外一名の共有名義の建物(甲七)が存在するので、これによる減価率を二割とすると、同土地の持分二分の一の価額は、金六一六万円となる。右金額から、被告小川春子及び同小川一郎外の抵当債務の合計額二三〇五万円の半額が未払いになっているとして、これに二分の一(持分)を乗じた額五七六万円を控除すると、同土地の価額は金四〇万円となる。

被告小川春子は、合浦七番二六の土地はもともと同被告の所有であったと主張するが、証拠(甲六の一・二、乙一六、一七、一八の一・二、一九の一ないし三、二〇、被告小川春子本人)によれば、同土地は、昭和四四年九月、地上建物(昭和五九年取毀)と共に小川了の名義で北奥羽信用金庫から金二七〇万円を借り入れて購入したものであり、右借入にあたり被告小川春子の兄中川永吉が連帯保証人になったこと、しかし、同人が同信用金庫への返済を援助した可能性があることを全く否定することはできないものの、同人が同信用金庫への返済金のほとんどを被告小川春子のために支払ったことを裏付ける資料はないこと、小川了は昭和四五年四月青森県市町村職員共済組合から金一五〇万円を借り入れ、同信用金庫からの借入金の残金を完済したこと、小川了は昭和五五年一月一〇日、合浦七番二六の土地について被告小川春子に対し贈与を原因として所有権移転登記をしたが、翌昭和五六年三月一三日、小川了と被告小川春子の共有持分各二分の一とする更正登記をしたことが認められる。

右認定の事実に北奥羽信用金庫への返済状況、昭和四四年当時の小川了の給与収入額、被告小川春子には実家の水産加工業の手伝いによる収入があったこと等(乙一八の一・二、一九の一ないし三、被告小川春子)を考慮すると、合浦七番二六の土地は、購入の当初から小川了と被告小川春子の共有に属していたものであり、その共有持分は各二分の一と認めるのが相当である。

したがって、合浦七番二六の土地の持分二分の一は、小川了の遺産である。

3. 被告小川春子の特別受益(生前贈与)と相続開始時の価額

(1) 合浦七番一三の土地(別紙物件目録四記載の土地)の持分 二分の一 金五八八万円

土地の単価が金四万四〇〇〇円(甲一五、一六の一・二)、地積が一三三・六四平方メートル(甲五の一)であるので、路線価は金五八八万〇一六〇円、時価は金一一七六万〇三二〇円となるが、持分二分の一であるから、その時価は金五八八万円となる。

被告小川春子は、合浦七番一三の土地はもともと同被告の所有であったと主張するが、証拠(甲五の一・二、乙九の一ないし三、一〇、一一の一ないし三、一二・一三の各一・二、一四の一ないし六、一五の一ないし三、被告小川春子本人)によれば、同土地は、昭和三二年一〇月、小川了の名義で買い受け、同じく同人名義で住宅金融公庫から融資を受けて同地上に建物(別紙物件目録五記載の建物)を建築して自宅として使用してきたこと、同土地の購入にあたり被告小川春子の兄中川永吉の世話になったことが窺われるが、同人が同土地の購入資金を同被告のために援助したことを裏付ける資料はないこと、当時小川了と被告小川春子は共稼ぎであり、二人の収入から住宅金融公庫への返済をしていたこと、小川了は、被告小川春子と別居する直前の昭和五〇年六月、合浦七番一三の土地及び地上建物を被告小川春子に贈与したことして同被告のために所有権移転登記をしたことが認められる。

右認定の事実に小川了の昭和三二年当時の収入額(乙一二の一・二、一五の一ないし三)等を併せて考えること、合浦七番一三の土地は購入の当初から、同地上建物は建築時から、いずれも小川了と被告小川春子の共有に属していたものであり、その共有持分は各二分の一と認めるのが相当である。

そうすると、被告小川春子は、小川了から合浦七番一三の土地の持分二分の一について生計の資本として生前贈与を受けたことになる。

(2) 合浦七番一三の土地上の居宅の持分 二分の一 金二七万円

同建物(甲五の二)の固定資産評価額は、金五四万五九一九円(甲八の一)であり、その二分の一が時価となる。被告小川春子は、生計の資本として、小川了から合浦七番一三の土地の持分二分の一とともに同建物の持分二分の一の生前贈与を受けたものである。

(3) 現金一〇〇〇万円

被告小川春子は、昭和六一年四月頃、小川了からその退職金の中から金一〇〇〇万円を生計の資本として生前贈与を受けた。右金額が大きいことから生計の資本としての贈与と認められる。

原告は、右贈与は被告小川春子のほか、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子を加えた四人に対してされたものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

4. 遺留分侵害の有無

2の遺産の価額に3の特別受益の価額を加算して遺留分算定の基礎となる財産の価額を算定すると、金三二七二万円となる。

被告小川春子の遺留分の額は、その四分の一であるから、金八一八万円であるところ、同被告は、既に遺留分以上の合計金一六一五万円相当の特別受益(生前贈与)を得ているから、本件包括遺贈によってその遺留分を侵害されることはない。

したがって、被告小川春子の遺留分減殺請求は、理由がない。

次に、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子の各遺留分の額は、遺留分算定の基礎となる価額金三二七二万円の一二分の一であるから、各金二七二万円であるところから、同被告らが特別受益(生前贈与)を受けたことについては、これを認めるに足りる証拠はないから、同被告らは、本件包括遺贈によってその遺留分の価額各二七二万円相当の侵害を受けたことになる。

そして、遺留分減殺の順序は、遺贈を贈与より先にすべきであるから、大野片岡の土地・建物と合浦七番二六の土地の持分二分の一の価額の割合に応じて減殺すると、前者の分が各二六五万円、後者の分が各七万円となり、更にこれを右各物件についての共有持分の割合に換算すると、前者が各一〇〇〇分の一六四、後者が各一〇〇〇分の八八となる。

したがって、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子の遺留分減殺請求は、右の限度で理由がある。

5. そうすると、原告は、包括受遺者として、小川了の遺産である大野片岡の土地・建物及び合浦七番二六の土地の持分について、被告小川一郎、被告中川麻子、被告小川知子の遺留分を害さない範囲で、即ち大野片岡の土地・建物の持分一〇〇〇分の五〇八及び合浦七番二六の土地の持分一〇〇〇分の二三六について、その所有権を取得したから、被告らの本件所有権移転登記、持分移転登記及び抵当権設定登記は、原告の右各持分の範囲についてはその効力を生ぜず無効である。

(反訴について)

原告が、小川了と同棲し肉体関係を持つに至ったことは、被告小川春子の妻としての地位を違法に侵害した不法行為であるか否か。

前認定の事実及び証拠(乙八、原告、被告小川春子)によれば、原告は、昭和五三年二月、亡夫孝の職場の同僚であった小川了から何回となく「妻と別居して三年位になる。妻とは必ず離婚する。一人暮らしなので暖かい生活がほしい。是非一緒になってほしい。親子三人を路頭に迷わすことは絶対にしない。」などと言われ一緒に生活することを懇願されたため、娘の了解を得て、同年三月末頃から小川了と同棲し、青森市内の借家で娘二人と共に四人で暮らすようになったこと、小川了と被告小川春子は、昭和五〇年七月に別居して以来、その交流は希薄となり夫婦としての実体を喪失し、婚姻関係は事実上破綻状態にあったこと、原告と小川了の同棲は、事実上の夫婦としての実体を持ち、その夫婦共同生活(内縁関係)は、小川了が平成元年三月一四日死亡するまで一一年間継続したことが認められる。

以上によれば、昭和五三年三月当時、小川了と被告小川春子との婚姻関係は事実上破綻し形骸化しており、被告小川春子が小川了に対し貞操を守ることを要求し難い状況にあったうえ、原告は、小川了に妻子があることを知ってはいたものの、小川了から被告小川春子との婚姻関係が事実上破綻状態にあることの説明を受けたうえ、積極的に同棲を懇願され、小川了との同棲に応じ事実上夫婦の関係(内縁関係)を形成するに至ったものであるから、これをもって、原告が被告小川春子の妻としての地位を違法に侵害したということはできない。

したがって、被告小川春子の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

物件目録〈略〉

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